CoC現代シナリオ「無人駅」
<はじめに>
このシナリオは現代日本を舞台にしたクトゥルフ神話TRPG用シナリオである。インセインなどへの転用は可とする。
必要があれば各種サプリメントを利用して良い。
テーマ曲としてSound Horizonのアルバムから「sacrifice」をBGMなどとして使用してほしい。サンホラはいいぞ。
<KP情報:事件の真相・背景>
この事件は天野みゆきという女性の死がきっかけとなっている。
天野にはさゆりという妹がいたが、これが狂信者である村の男たちから儀式の供物として捧げられ、邪神ヨグ=ソトースの落とし子の子を孕み、それを苦にして自死した。
さゆりは無理矢理孕まされたにも関わらず村人たちからは忌み嫌われ、狂信者からは聖母と呼ばれあがめられた。
みゆきはこれら村人たちのさゆりへの行いに復讐するために村で殺戮を行い、最後には村に火をつけて村人たちと共に焼身して死んでいる。
村には当時使われていた無人駅だけが廃墟として残っているが、みゆきが事件を起こした日になると毎年1本だけ無人駅に電車が到着する。
探索者たちは不幸にもこの電車に乗り合わせてしまう。駅の名前はきさらぎ駅という。
村は落とし子の影響で8月29日から火災までをループしている。
クリアに向けた探索者たちの目的はさゆりとみゆきの事件の真相に迫ること、そして村が焼かれた日、無人駅が完全に消失するまでになんとかして村を脱出することである。
さゆりとみゆきの事件の大まかな流れは以下である。
XX年8月29日 さゆりが邪神を孕まされる ← 探索者たちが無人駅に迷い込む
同年8月31日 さゆり自死
同年9月1日 みゆきが大量虐殺ののち村ごと焼身 ← 脱出期限
村ではさゆり事件を再演するような怪奇現象が発生し、9月1日日没頃、村があった一帯は山火事に見舞われる。しかし村の外からはそのような現象は確認できず、助けが来ることはない。脱出できなかった場合、後日廃村でなんの痕跡もないのに焼死体となった探索者たちが発見されることになる。
<はじめに>
残暑厳しい8月29日、探索者は急いでいた。それぞれ目的地があって電車に乗ろうとしていたがうっかり時刻に遅れそうなのだ。
慌てて飛び乗った電車の行き先を確認することを怠った探索者は電車が出発してから乗り間違いに気づく。
次の駅で乗り換えよう。そう思ったが、急行電車なのか、電車はいつまでたっても停まらない。
車内には探索者以外に人は乗っておらず、皆この電車の行き先を知らない。
途方に暮れているとくぐもった声でアナウンスが聞こえる。
「次はー、きさらぎー、きさらぎです」
オカルトや知識判定で成功した探索者、もしくはリアル知識がある場合、以下の情報を入手
「きさらぎ駅とはオカルト掲示板で有名な話で、踏み入ると帰ってこられない異世界の無人駅である」
電車はスピードを落とし、寂れた駅に停車する。探索者たちが駅に降り立つと電車は発車していく。
この時目星などで運転席を確認した場合、本来運転席があるべき場所は無人であることに気づく。
降りない場合はこの時点で自動ロストとする。エンド以下
<エンド:ひきにく>
電車から降りなかった探索者はしばらくの間、一定の揺れに身を預けながら席に座っている。すると間も無くくぐもった無感情な声でアナウンスが聞こえる。
「つぎはー、ひきにくー、ひきにくです」
この時点で知識、もしくはオカルト技能、リアル知識で猿夢を知っている場合は以下の情報を得る。
「猿夢とは電車が駅に止まる代わりに乗客の死に方を告げるものである」
SANC 0/1
探索者が夢か聞き間違いを疑っていると、指先に痛みが走る。
見ると指が潰れてぐちゃぐちゃになっている。それは徐々に全身へ広がっていき、ついに探索者はひとかたまりの肉塊と化す。
ロスト。
以下探索では一日に二箇所を調査することができる。
一日の終りには適当な場所で安全に休むことができる。
<無人駅>
駅に降り立った探索者たちはそこが全くの無人であることに気づく。改札は古い手動の物であるが、駅員の姿はない。駅には待合と駅員室がある。
待合は簡素な木製の長椅子が一台置いてあるきりで、壁には古いポスターが何枚か貼られている。それぞれ夏祭りや花火大会に関する物で、どれも年月が経過していて詳しく判別できない。
駅員室には日誌が置いてあるが、XX年9月1日までのものしか残っていない。
内容は極めてありふれた物である。
<村の探索>
外は一帯が廃墟の町なみと化している。火事の跡地のようで、全焼した建物が多い。
目星に技能成功で、探索者は白いワンピースを着た女の人影を見た気がする。影の去った方には小さな祠と公園があるようだ。
探索者が影を追うと、入れ替わりに髪を乱し、憔悴しきった様子の白いワンピースの女が出て来る。声をかけても反応せず、触れることはできない。触れようとすると影のようにすり抜けてしまう。SANC1/1d3
女の姿はある民家の中にすぐに消えてしまう。
<民家の探索>
民家は半焼していて、調査できる箇所は少ない。
ただ、そこには家の骨組みに縄のようなものを通し、首を吊っている白女の姿がある。
女は妊娠している様子で、白いワンピースを着ている。
しかし探索者はこれに触れることができない。ふれようとすると手がすり抜けてしまうのだ。SANC1/1d3
アイデア成功で探索者は自分と同じように、白いワンピースの女の死体をみつめるけはいを感じる。振り向くとそこには赤いワンピースの女の幻影が立っている。白いワンピースの女同様、触れることはできない。何か話しかけても返答はない。
女の影はそのまま住宅からでていく。追っていくと村はずれの祠にたどり着く。
<祠>
赤いワンピースの女とやせ形の男の幻影がある。身振りからして言い争っているようだ。
聞き耳に成功すると部分的ながら話している内容を聞き取ることができる。
「あんたがあの子を」「何が聖母よ」
男は女の剣幕に動じることなくなにか話しているが、内容は聞き取れない。
男の姿に注目すると、2mはあろうかという長身でやせていて、どことなく人間離れした雰囲気がある。目つきは鋭く、髪は銀髪の20代くらいの男である。
探索者が観察していると赤いワンピースの女は「この怪物め!」と叫んで祠から飛び出して来る。そのまま住宅方面へ去っていく。
<追跡:赤いワンピースの女>
赤いワンピースの女を追っていくと、住宅街にポリタンクを持った彼女を見つけることができる。≪目星≫などを使用することを希望する探索者は使用してよい。技能成功で、ポリタンクの中身からは灯油やガソリンのような、石油燃料の臭いがすることがわかる。
彼女はタンクの中身を住宅街にまいているらしい。女とは接触できないため、これを制止することはできない。
女はそのまま祠と駅を除く辺り一帯になにかをまいた上でマッチに火をつける。
それを地面に落とすと、瞬く間に火の手が上がる。
探索者は火の手が回る前に祠か駅へ逃げることができる。
<決戦:祠>
祠は無人で勝手に入ることができる。
祠には何かの祭壇のようなものがある。
詳しく調べてみるとそこには銀色の粘膜につつまれた胎児のようなものがある。
胎児は生きているらしく身動きをしている。
調べようとした探索者はこれに襲われて戦闘になる。
エネミーデータはサプリメントマレウスモンストロルムに記載されているヨグ=ソトースの人間的な落とし子のデータを使用する。正気度喪失もそれに準じる。ただし、胎児であることから、各戦闘パラメータは平均値の半分以下でなければならない。
戦闘に勝利すると、探索者の周囲を包んでいた炎は幻覚のように消え失せ、焼失した集落の中に探索者は佇んでいることに気がつく。
日付は8月29日。探索者は外から列車が間もなく到着することを知らせるアナウンスを聞く。アイデア技能成功で田舎の電車は停車時間が長いことから、今から向かえば列車に乗れることがわかる。
探索者は村を離れるかこのまま残るかを選択できる。
村から出る場合はそのままエンディング。彼らは事件の真相を知ることなく、この出来事を不可解な体験として少しずつ忘れていく。正気度回復なし。
<無人駅に逃げた場合、村に残る場合>
無人駅に逃げ込んだ場合、火の手は危うくも駅内まで及ぶことなく探索者たちは一夜を明かすことができる。(何周もしている場合、徐々に火の手は駅に迫っていることを描写すること)以下は村に残った場合と同じ展開。
日付は8月29日、朝。火災などウソのように静まり返った焼け焦げた住宅街の方で、妊娠しているらしい女がフラフラと一軒の民家へ歩いて行く。
それは探索者たちが首吊り女の遺体を発見した民家で、女はあの時の死体と同一である。
追っていくとまた同じ民家に女は入っていく。
探索者たちが民家に入っていくと女はすでに首をつって死んでいる。
<女の日記>
唯一前回と違う点があるとすれば、女の死体の近くには日記が落ちていることである。
焼け焦げているため、読むには図書館技能に成功する必要がある。これには2回まで挑戦することができる。
技能に成功すると、以下の内容を読むことができる。
8月28日
神主様のご子息から連絡。明日祠で会えないかとのこと。
以前からお宅に引きこもりがちで、あまり人と関わりを持たなかった方が、私に一体どんなご用だろう。
噂では何か民俗学の研究をなさっているとのことだけれど……。
8月29日
襲われた。のこのこついていくんじゃなかった。
乱暴されている間、彼以外の気違いが何か経か呪文めいた言葉を唱えていた。とにかく怖かった。
その後、乱暴されてすぐだと言うのに私の腹は風船を膨らませるようにみるみる大きくなっていって……。
男たちの狂喜ぶりにも恐怖を感じた。「ついに降臨なさるのだ」「やはりこの方こそ聖母にふさわしかった」というような言葉を聞いた気がする。
この言葉を聞かなくてもわかる。私の中にいるのは化物だ。これが生まれる前に、奴らの思い通りになる前になんとかしなくては。
姉さん、ごめんなさい。私は先に逝きます。
探索者たちが日記を読んでいると、背後に視線を感じる。振り向くとそこには赤いワンピースの女が立ち尽くしている。
女はそのまま民家を出ていってしまう。
<赤いワンピースの女②>
赤いワンピースの女を追う場合、住宅街を、ポリタンクを手にさまよっている彼女を見つけることができる。
≪幸運≫成功で、彼女は異様に古い手帳を落とす。
探索者は≪図書館≫技能に2回まで挑戦し、内容を読むことができる。
この村はおかしい。何もかもがそう確信させる。
村の中心にあるあの祠なんてその最たるものだ。
何を祀っているのかわからないし、宮司の息子だというやせ型の男は信者とともになにか聞いたこともないような呪文のような、歌のようなものをあの中で夜通し唱えていることが多い。
それに、気のせいじゃない。
あいつらの、妹を、さゆりを見る目には害意がある。
転地療養なんてするんじゃなかった。
こんな僻地で、こんな変な宗教があるところで、よそ者の私たちの気が休まることなんかない。
女はそのまま街に消えていき、後を追うことはできない。
<祠②>
探索者たちは女を探すうちに古い祠にたどり着く。≪聞き耳≫で人の気配があることに気づく。失敗した場合は特に何も気づくことができない。
気配の主はやせ型の男で、ひとりで笑っている。干渉することはできないが、時折つぶやく言葉を聞き取ることができる。
「やはりあのさゆり様は聖母にふさわしかった」「時の王の御子がかりそめの受肉を果たしておいでになった」「ああ、大いなるヨグ=ソトホト様、われらに永劫の時を、尽きぬ時をお与えください」
男はそのまま祠の中に消える。
<戦闘>
すべての情報を得た状態で戦闘に突入するとラスボス戦に移行する。情報に取り逃しがある場合、先に記述した胎児との戦闘になり、翌日のループに戻る。
ラスボス戦はやせ型の男(パラメーターランダムNPC。難易度を調整したい場合は攻撃をさせたり、固くしたりするとよい)とヨグ=ソトースの人間的な落とし子(平均値)との戦闘を行う。
勝利した場合、以下のエンディングに進行する。
<エンディング>
生き残った探索者たちは周囲が異常に暑いことに気づく。
火だ。すぐにあなたたちは赤いワンピースの女と、彼女が手にしていたポリタンクと不可解な火災を思い出す。
逃げなければ。
≪アイデア≫に成功で、探索者は「なぜか駅までは火の手が及ばないこと」を思い出す。アイデアに失敗した場合は≪幸運≫成功で幸運にも逃げているうちに駅にたどり着く。
深夜だというのに駅には列車が止まっている。
≪目星≫などで観察した場合、行先が「浮世」であると気づく。
列車は迫りくる火の手を辛くも逃れてトンネルを走っていく。
≪目星≫をする探索者がいた場合、成功すると、無人駅の手動改札でなにかを押しとどめようとこちらに背を向けて立つ白いワンピースの女の影を見る。
安堵のためか気が遠くなる。
次の瞬間、あなたは乱暴に揺り起こされて目を覚ます。
「お客さん、もう終点ですよ」
やせ形の駅員は面倒くさそうに去っていく。
いつの間にか見知らぬ終着駅に到着していたあなたは、自分がどこかへ行こうとして電車に乗ったことを思い出す。乗り過ごしてしまった。
長い夢を見ていた気がするが、詳細に思い出すことはできない。
仕方なく駅で始発を待つあなたの視界の隅で、赤いひらひらしたものが通り過ぎていく。
おめでとう。あなたたちはこの世に帰還することができました。
生還者はクリティカルした技能に1D6の成長と、1D6の正気度回復を行う。
End
<あとがき&補足>
探索者たちを帰したのは白いワンピースの女、さゆりですが、赤いワンピースの女、みゆきとやせ型の男は現世まで追ってきている風に終わらせてください(希望)
私の文章力では限界でした。
近年まれにみる難産でしたが(初出は数年前です)なんとか形になり安堵しています。
よろしければ遊んでみてください。
読んでいただきありがとうございました。
2017/12/27 R
このシナリオは現代日本を舞台にしたクトゥルフ神話TRPG用シナリオである。インセインなどへの転用は可とする。
必要があれば各種サプリメントを利用して良い。
テーマ曲としてSound Horizonのアルバムから「sacrifice」をBGMなどとして使用してほしい。サンホラはいいぞ。
<KP情報:事件の真相・背景>
この事件は天野みゆきという女性の死がきっかけとなっている。
天野にはさゆりという妹がいたが、これが狂信者である村の男たちから儀式の供物として捧げられ、邪神ヨグ=ソトースの落とし子の子を孕み、それを苦にして自死した。
さゆりは無理矢理孕まされたにも関わらず村人たちからは忌み嫌われ、狂信者からは聖母と呼ばれあがめられた。
みゆきはこれら村人たちのさゆりへの行いに復讐するために村で殺戮を行い、最後には村に火をつけて村人たちと共に焼身して死んでいる。
村には当時使われていた無人駅だけが廃墟として残っているが、みゆきが事件を起こした日になると毎年1本だけ無人駅に電車が到着する。
探索者たちは不幸にもこの電車に乗り合わせてしまう。駅の名前はきさらぎ駅という。
村は落とし子の影響で8月29日から火災までをループしている。
クリアに向けた探索者たちの目的はさゆりとみゆきの事件の真相に迫ること、そして村が焼かれた日、無人駅が完全に消失するまでになんとかして村を脱出することである。
さゆりとみゆきの事件の大まかな流れは以下である。
XX年8月29日 さゆりが邪神を孕まされる ← 探索者たちが無人駅に迷い込む
同年8月31日 さゆり自死
同年9月1日 みゆきが大量虐殺ののち村ごと焼身 ← 脱出期限
村ではさゆり事件を再演するような怪奇現象が発生し、9月1日日没頃、村があった一帯は山火事に見舞われる。しかし村の外からはそのような現象は確認できず、助けが来ることはない。脱出できなかった場合、後日廃村でなんの痕跡もないのに焼死体となった探索者たちが発見されることになる。
<はじめに>
残暑厳しい8月29日、探索者は急いでいた。それぞれ目的地があって電車に乗ろうとしていたがうっかり時刻に遅れそうなのだ。
慌てて飛び乗った電車の行き先を確認することを怠った探索者は電車が出発してから乗り間違いに気づく。
次の駅で乗り換えよう。そう思ったが、急行電車なのか、電車はいつまでたっても停まらない。
車内には探索者以外に人は乗っておらず、皆この電車の行き先を知らない。
途方に暮れているとくぐもった声でアナウンスが聞こえる。
「次はー、きさらぎー、きさらぎです」
オカルトや知識判定で成功した探索者、もしくはリアル知識がある場合、以下の情報を入手
「きさらぎ駅とはオカルト掲示板で有名な話で、踏み入ると帰ってこられない異世界の無人駅である」
電車はスピードを落とし、寂れた駅に停車する。探索者たちが駅に降り立つと電車は発車していく。
この時目星などで運転席を確認した場合、本来運転席があるべき場所は無人であることに気づく。
降りない場合はこの時点で自動ロストとする。エンド以下
<エンド:ひきにく>
電車から降りなかった探索者はしばらくの間、一定の揺れに身を預けながら席に座っている。すると間も無くくぐもった無感情な声でアナウンスが聞こえる。
「つぎはー、ひきにくー、ひきにくです」
この時点で知識、もしくはオカルト技能、リアル知識で猿夢を知っている場合は以下の情報を得る。
「猿夢とは電車が駅に止まる代わりに乗客の死に方を告げるものである」
SANC 0/1
探索者が夢か聞き間違いを疑っていると、指先に痛みが走る。
見ると指が潰れてぐちゃぐちゃになっている。それは徐々に全身へ広がっていき、ついに探索者はひとかたまりの肉塊と化す。
ロスト。
以下探索では一日に二箇所を調査することができる。
一日の終りには適当な場所で安全に休むことができる。
<無人駅>
駅に降り立った探索者たちはそこが全くの無人であることに気づく。改札は古い手動の物であるが、駅員の姿はない。駅には待合と駅員室がある。
待合は簡素な木製の長椅子が一台置いてあるきりで、壁には古いポスターが何枚か貼られている。それぞれ夏祭りや花火大会に関する物で、どれも年月が経過していて詳しく判別できない。
駅員室には日誌が置いてあるが、XX年9月1日までのものしか残っていない。
内容は極めてありふれた物である。
<村の探索>
外は一帯が廃墟の町なみと化している。火事の跡地のようで、全焼した建物が多い。
目星に技能成功で、探索者は白いワンピースを着た女の人影を見た気がする。影の去った方には小さな祠と公園があるようだ。
探索者が影を追うと、入れ替わりに髪を乱し、憔悴しきった様子の白いワンピースの女が出て来る。声をかけても反応せず、触れることはできない。触れようとすると影のようにすり抜けてしまう。SANC1/1d3
女の姿はある民家の中にすぐに消えてしまう。
<民家の探索>
民家は半焼していて、調査できる箇所は少ない。
ただ、そこには家の骨組みに縄のようなものを通し、首を吊っている白女の姿がある。
女は妊娠している様子で、白いワンピースを着ている。
しかし探索者はこれに触れることができない。ふれようとすると手がすり抜けてしまうのだ。SANC1/1d3
アイデア成功で探索者は自分と同じように、白いワンピースの女の死体をみつめるけはいを感じる。振り向くとそこには赤いワンピースの女の幻影が立っている。白いワンピースの女同様、触れることはできない。何か話しかけても返答はない。
女の影はそのまま住宅からでていく。追っていくと村はずれの祠にたどり着く。
<祠>
赤いワンピースの女とやせ形の男の幻影がある。身振りからして言い争っているようだ。
聞き耳に成功すると部分的ながら話している内容を聞き取ることができる。
「あんたがあの子を」「何が聖母よ」
男は女の剣幕に動じることなくなにか話しているが、内容は聞き取れない。
男の姿に注目すると、2mはあろうかという長身でやせていて、どことなく人間離れした雰囲気がある。目つきは鋭く、髪は銀髪の20代くらいの男である。
探索者が観察していると赤いワンピースの女は「この怪物め!」と叫んで祠から飛び出して来る。そのまま住宅方面へ去っていく。
<追跡:赤いワンピースの女>
赤いワンピースの女を追っていくと、住宅街にポリタンクを持った彼女を見つけることができる。≪目星≫などを使用することを希望する探索者は使用してよい。技能成功で、ポリタンクの中身からは灯油やガソリンのような、石油燃料の臭いがすることがわかる。
彼女はタンクの中身を住宅街にまいているらしい。女とは接触できないため、これを制止することはできない。
女はそのまま祠と駅を除く辺り一帯になにかをまいた上でマッチに火をつける。
それを地面に落とすと、瞬く間に火の手が上がる。
探索者は火の手が回る前に祠か駅へ逃げることができる。
<決戦:祠>
祠は無人で勝手に入ることができる。
祠には何かの祭壇のようなものがある。
詳しく調べてみるとそこには銀色の粘膜につつまれた胎児のようなものがある。
胎児は生きているらしく身動きをしている。
調べようとした探索者はこれに襲われて戦闘になる。
エネミーデータはサプリメントマレウスモンストロルムに記載されているヨグ=ソトースの人間的な落とし子のデータを使用する。正気度喪失もそれに準じる。ただし、胎児であることから、各戦闘パラメータは平均値の半分以下でなければならない。
戦闘に勝利すると、探索者の周囲を包んでいた炎は幻覚のように消え失せ、焼失した集落の中に探索者は佇んでいることに気がつく。
日付は8月29日。探索者は外から列車が間もなく到着することを知らせるアナウンスを聞く。アイデア技能成功で田舎の電車は停車時間が長いことから、今から向かえば列車に乗れることがわかる。
探索者は村を離れるかこのまま残るかを選択できる。
村から出る場合はそのままエンディング。彼らは事件の真相を知ることなく、この出来事を不可解な体験として少しずつ忘れていく。正気度回復なし。
<無人駅に逃げた場合、村に残る場合>
無人駅に逃げ込んだ場合、火の手は危うくも駅内まで及ぶことなく探索者たちは一夜を明かすことができる。(何周もしている場合、徐々に火の手は駅に迫っていることを描写すること)以下は村に残った場合と同じ展開。
日付は8月29日、朝。火災などウソのように静まり返った焼け焦げた住宅街の方で、妊娠しているらしい女がフラフラと一軒の民家へ歩いて行く。
それは探索者たちが首吊り女の遺体を発見した民家で、女はあの時の死体と同一である。
追っていくとまた同じ民家に女は入っていく。
探索者たちが民家に入っていくと女はすでに首をつって死んでいる。
<女の日記>
唯一前回と違う点があるとすれば、女の死体の近くには日記が落ちていることである。
焼け焦げているため、読むには図書館技能に成功する必要がある。これには2回まで挑戦することができる。
技能に成功すると、以下の内容を読むことができる。
8月28日
神主様のご子息から連絡。明日祠で会えないかとのこと。
以前からお宅に引きこもりがちで、あまり人と関わりを持たなかった方が、私に一体どんなご用だろう。
噂では何か民俗学の研究をなさっているとのことだけれど……。
8月29日
襲われた。のこのこついていくんじゃなかった。
乱暴されている間、彼以外の気違いが何か経か呪文めいた言葉を唱えていた。とにかく怖かった。
その後、乱暴されてすぐだと言うのに私の腹は風船を膨らませるようにみるみる大きくなっていって……。
男たちの狂喜ぶりにも恐怖を感じた。「ついに降臨なさるのだ」「やはりこの方こそ聖母にふさわしかった」というような言葉を聞いた気がする。
この言葉を聞かなくてもわかる。私の中にいるのは化物だ。これが生まれる前に、奴らの思い通りになる前になんとかしなくては。
姉さん、ごめんなさい。私は先に逝きます。
探索者たちが日記を読んでいると、背後に視線を感じる。振り向くとそこには赤いワンピースの女が立ち尽くしている。
女はそのまま民家を出ていってしまう。
<赤いワンピースの女②>
赤いワンピースの女を追う場合、住宅街を、ポリタンクを手にさまよっている彼女を見つけることができる。
≪幸運≫成功で、彼女は異様に古い手帳を落とす。
探索者は≪図書館≫技能に2回まで挑戦し、内容を読むことができる。
この村はおかしい。何もかもがそう確信させる。
村の中心にあるあの祠なんてその最たるものだ。
何を祀っているのかわからないし、宮司の息子だというやせ型の男は信者とともになにか聞いたこともないような呪文のような、歌のようなものをあの中で夜通し唱えていることが多い。
それに、気のせいじゃない。
あいつらの、妹を、さゆりを見る目には害意がある。
転地療養なんてするんじゃなかった。
こんな僻地で、こんな変な宗教があるところで、よそ者の私たちの気が休まることなんかない。
女はそのまま街に消えていき、後を追うことはできない。
<祠②>
探索者たちは女を探すうちに古い祠にたどり着く。≪聞き耳≫で人の気配があることに気づく。失敗した場合は特に何も気づくことができない。
気配の主はやせ型の男で、ひとりで笑っている。干渉することはできないが、時折つぶやく言葉を聞き取ることができる。
「やはりあのさゆり様は聖母にふさわしかった」「時の王の御子がかりそめの受肉を果たしておいでになった」「ああ、大いなるヨグ=ソトホト様、われらに永劫の時を、尽きぬ時をお与えください」
男はそのまま祠の中に消える。
<戦闘>
すべての情報を得た状態で戦闘に突入するとラスボス戦に移行する。情報に取り逃しがある場合、先に記述した胎児との戦闘になり、翌日のループに戻る。
ラスボス戦はやせ型の男(パラメーターランダムNPC。難易度を調整したい場合は攻撃をさせたり、固くしたりするとよい)とヨグ=ソトースの人間的な落とし子(平均値)との戦闘を行う。
勝利した場合、以下のエンディングに進行する。
<エンディング>
生き残った探索者たちは周囲が異常に暑いことに気づく。
火だ。すぐにあなたたちは赤いワンピースの女と、彼女が手にしていたポリタンクと不可解な火災を思い出す。
逃げなければ。
≪アイデア≫に成功で、探索者は「なぜか駅までは火の手が及ばないこと」を思い出す。アイデアに失敗した場合は≪幸運≫成功で幸運にも逃げているうちに駅にたどり着く。
深夜だというのに駅には列車が止まっている。
≪目星≫などで観察した場合、行先が「浮世」であると気づく。
列車は迫りくる火の手を辛くも逃れてトンネルを走っていく。
≪目星≫をする探索者がいた場合、成功すると、無人駅の手動改札でなにかを押しとどめようとこちらに背を向けて立つ白いワンピースの女の影を見る。
安堵のためか気が遠くなる。
次の瞬間、あなたは乱暴に揺り起こされて目を覚ます。
「お客さん、もう終点ですよ」
やせ形の駅員は面倒くさそうに去っていく。
いつの間にか見知らぬ終着駅に到着していたあなたは、自分がどこかへ行こうとして電車に乗ったことを思い出す。乗り過ごしてしまった。
長い夢を見ていた気がするが、詳細に思い出すことはできない。
仕方なく駅で始発を待つあなたの視界の隅で、赤いひらひらしたものが通り過ぎていく。
おめでとう。あなたたちはこの世に帰還することができました。
生還者はクリティカルした技能に1D6の成長と、1D6の正気度回復を行う。
End
<あとがき&補足>
探索者たちを帰したのは白いワンピースの女、さゆりですが、赤いワンピースの女、みゆきとやせ型の男は現世まで追ってきている風に終わらせてください(希望)
私の文章力では限界でした。
近年まれにみる難産でしたが(初出は数年前です)なんとか形になり安堵しています。
よろしければ遊んでみてください。
読んでいただきありがとうございました。
2017/12/27 R
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